人工膝関節置換術の合併症

現在では人工関節の材料やデザインの改良、手術手技の格段の進歩などによって、安定して良い成績が得られるようになってきました。

その結果、人工膝関節置換術による合併症はかなり少なくなってきましたが、完全にゼロに出来るわけではありません。

ここでは、実際に臨床の現場でみられる人工膝関節置換術の合併症を挙げていきます。

感染

数%(1~2%)という低い発生率ですが、一度感染を起すと治療に難渋することも少なくなくありません。多くは細菌による感染で、一度骨の中まで細菌が入るとなかなか死滅させる事が出来ずに、根治させるのが困難になってきます。
一般的には、関節内の傷んだ組織を切除して十分に洗浄したり、進行して骨が解けてしまった場合などでは、一度入れた人工関節を取り出します。
また、手術後早期には感染兆候があらわれずに、体力が低下したり、抵抗力が落ちたときになどに、感染の症状が現れるケースもあります。ケースによっては術後数年経過してから感染が起こることもあるので、定期的な経過観察が必要です。

人工関節のゆるみ

細菌感染によって骨の一部が溶けてしまうと、人工関節と骨の間に「ゆるみ」が生じる事があります。
また、人工膝関節の超高分子ポリエチレンや金属の磨耗分(まもうふん)が生じて、この磨耗分を細胞が取り込んで炎症を起したりします。さらには、この磨耗分が人工膝関節と骨の隙間に侵入して骨が溶解してくると、人工膝関節にゆるみが生じてくる事があります。

人工関節の破損

大きな衝撃が繰り返して加わったり、人工関節に過度のストレスが加わったり、軟部組織のバランスが悪く、バランスよく荷重できなかった場合に、人工関節の素材である超高分子ポリエチレンや金属が異常に摩耗したり破損することが稀にあります。
このような場合は、多くの摩耗粉が発生したりするので、人工関節のゆるみが生じたりします。

深部静脈炎・血栓症・肺塞栓症

人工関節置換術の手術後、下肢の深部(しんぶ)静脈に血栓(けっせん)が生じる深部静脈血栓症が起こり、脚がむくんだり痛みが出たりすることがあります。
また、原因はさまざまですが、この血栓がはがれて血中に遊離(ゆうり)してしまうと、血液とともに流れて肺の血管に防いでしまう場合があります。これは肺塞栓症と呼ばれ、ときに命にかかわる非常に危険で、重大な合併症です。
深部静脈炎や血栓症の予防のために、圧迫包帯や弾性ストッキングで下肢の静脈の血流障害を予防したり、血液の凝固をふせぐ薬剤を用いたり、脚を自動的にマッサージする器械(フットポンプ装置)などを用いたりして、人工関節の術後、出来るだけ早い時期に、脚の運動やストレッチを始めるなどの予防法がとられます。

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