人工関節置換術のすべて

はじめまして。まつだ整形外科クリニック院長の松田芳和と申します。

私は人工関節置換術(得に膝関節)を専門にしています。

当サイトは「人工関節置換術」について少しでも多くの方々に知ってもらえればと思い作りあげました。

1994年、富山医科薬科大学(現富山大学)医学部卒業後、軽井沢病院をはじめ各大学関連病院を勤務、埼玉県石井クリニックを経て2007年に湘南鎌倉人工関節センターに人工関節部長および研究開発部長として勤務。現在まで数多くの人工関節手術を経験するとともに、国内外の学会発表や論文、講演活動に携わってきました。

海外においては2003年にドイツVulpius Clinicに短期研修、2005年にアメリカ合衆国のFlorida Tampa General Hospitalへ留学を経験してきました。

また、2006年にはJohn Insall Traveling Fellowshipにアジア・環太平洋代表(世界で毎年4名選出)として選出され、全米における人工膝関節置換術の最高峰の病院、研究室などで手術見学、講演なども経験しています。
(その他詳しい業績はこちら)

当サイトでは、人工関節置換術に関する無料小冊子や人工関節に関する情報を用意しております。お気軽にご利用ください。

人工関節置換術の特集号に掲載されました

当院、まつだ整形外科クリニック(埼玉県熊谷市)が、サンデー毎日-2011年8月夏季合併号の特集ページ「整形外科大特集」p.98~p.99に「人工関節置換術を医療提供するクリニック」として掲載されました。

「病院の実力 2013総合編」(読売新聞社)に掲載 されました。

読売新聞社 2013年2月4日発売「病院の実力 2013総合編」に掲載されました

手術を受ける場合の医師(病院)選びについて

近年、膝関節の除痛、機能改善のために「人工膝関節置換術」の手術を受ける患者さんが増えています。その数は年間7万件にも達します。 人工膝関節置換術は基本的な技術を身に付けた整形外科医であれば行えます。

しかしながら、この手術は非常に奥が深く、手術技術や経験、知識による差が大変大きいと言えます。

従って、みなさんが手術を受ける場合、少なくても手術経験が数百例以上あることや年間100例以上行っている医師がいる病院での手術が望ましいと考えます。

特に手術経験は非常に大切です。いろんな合併症が起こり得ますが、適切な対処が出来るかどうかは術者の経験、知識がものを言うからです。

私は湘南鎌倉人工関節センターでは毎年100例以上の執刀を行い、年間250例以上の手術に携わってきました。

また、数多くの学会発表や論文発表など、人工膝関節置換術に関しては、技術と知識の獲得のために誰にも引けを取らないくらいに、正面から向き合い、努力を続けてきたつもりです。手術を考えている患者さんにとっては、微力ながらお力になれると自負しています。

また、術後のリハビリも大切な要素です。人工関節置換術が数多く行われている病院では、経験豊富な理学療法士がいることがほとんどです。

人工関節置換術をうけるかどうかの判断について

患者さんにとって手術をうけるかどうかの判断は時に非常に難しいものです。

よく外来で「私の膝の状態であれば手術を受けたほうが良いですか?それとも受けないほうが良いでしょうか?どう思いますか?」と聞かれます。

基本的には手術を受けるかどうか決めるのは「患者さんご自身」です。膝の痛み、困り具合は患者さんによってさまざまです。

決してレントゲンの変形の程度で決まるわけではありません。レントゲンで変形が著しくても、さほど日常生活で困らない方にとっては必ずしも手術は必要ではありません。

実際に、ものすごい内反変形(O脚)がある方でも、その人にとってあまり困らないのであれば私は手術を勧めません。 なぜなら、あくまでも人工関節置換術は治療において最終手段であり、日常生活で困らないのであれば無理に行う必要はないからです。 一方でレントゲンではさほど変形が強くなく、杖も使用せずに歩行が可能な方でも手術を希望される人もいます。

これは日常生活で困る理由は人により異なるからです。

たとえば、趣味でガーデニングをしていたり、ゴルフをしていたり、散策をしている方にとっては、膝の痛みでこれらの趣味が出来なくなることは人生の喜びを失うことであり、とても困るわけです。このような方々は比較的症状が軽くても積極的に手術を希望されるケースが多々あります。

私は手術のメリット・デメリットをよく説明したうえでそれでも希望される方には手術を行います。この場合、条件をみたせば、大腿骨と脛骨の内側の関節面だけ置換する片側単置換術(UKA)を行います。(全置換術と比較すると侵襲も少なく、早期社会復帰が可能となる場合が多いです) このように最終的には患者さんの意志決定によるわけですが、もちろん明らかにする必要がない患者さんには手術の希望があっても保存的治療を勧めます。

一方で、われわれ医師が手術を決定する場合もあります。その多くは人工関節置換術の術後のケースです。たとえば、手術後に感染を起こした場合、このケースでは速やかに適切な対処が必要になります。

また、術後にたとえ無症状であってもインプラントのゆるみを認めた場合、また挿入したポリエチレンが摩耗した場合、これらも医師の決定によって速やかに手術を行う必要があります。 その他、稀ではありますがインプラントやポリエチレンの脱臼や破損を認めた場合も同様です。

ただし、これらの決定も経験豊富な医師による判断が望ましいでしょう。いずれにしても、経験豊富な医師による診察を受けることが最初の1歩だと思います。

TKAとUKAのメリット・デメリット

TKAのメリット

比較的手術が行いやすい

前述したように、TKAは人工膝関節置換術の90%以上を占めています。つまりは、代表的な方法であり安定した長期成績も出ていますので、比較的手術が行いやすいといえます。(簡単という意味ではありません)

手術適応がひろい

特別なケースを除き多くの症例においてTKAの適応になります。(化膿性関節炎や膝の伸展機構不全、重篤な全身合併症などは適応外です)高度の変形や前・後十字靱帯などの損傷があっても適応となります。

TKAのデメリット

比較的侵襲が大きい

UKAと比較すると骨切りやリリースする軟部組織の量、範囲が大きいために侵襲が大きくなります。(手術による侵襲を最小限にするための最少侵襲手術(MIS:Minimally Invasive Surgery)という手術方法があります。)侵襲は術後の膝の可動域や歩行能力に影響を与えますので、社会復帰に時間を要することがあります。

UKAのメリット

侵襲が小さい

前・後十字靱帯を温存して障害された関節面のみ置換するため(日本では大腿脛骨関節面の内側のみ)、侵襲が少なく手術が可能です。出血量も少なく、術後の腫脹も少ないために早期から良好な可動域や歩行能力の獲得が期待できます。

UKAのデメリット

手術適応がせまい

UKAの適応となるのは、内側OA(変形性膝関節症)や特発性骨壊死であり、関節リウマチなどの炎症性疾患は原則として適応にはなりません。また、前・後十字靱帯が保たれている必要もあります。その他いくつかの条件をみたす必要があり、TKAと比較すると適応は狭くなります。

より熟練した技術が必要

TKAでもUKAでも熟練した技術は必要ですが、UKAはまだ全症例の10%以下であり、TKAと比較して、まだまだ豊富な手術経験のある医師が少ないのが現状です。靭帯を温存し、小さなスペースで正確な骨切りとインプラントの正確な設置が要求されるからです。しかし、非常に優れた手術方法であるので適応であればTKAよりもUKAを選択するほうがベターかと思います。

最小侵襲人工関節手術(MIS: Minimally Invasive Surgery)

最小侵襲人工関節手術(Minimally Invasive Surgery: MIS)による人工関節置換術は、皮膚、関節包、筋肉への切開をできる限り最小限にとどめて人工関節置換術を行う方法です。

これは数年前より米国で試みられました。主な人工関節製品はかわりませんが、手術に使用する機器、ジグが開発、改良され現在では日本でも多くの施設で行われています。
(賛否両論、医師によるコンセプト、ポリシーもあり行わない医師も数多くいます)

このMIS法によって術後の痛みは劇的に軽くなり、リハビリの早期開始、早期退院が可能となった結果、早期社会復帰が可能となりました。

MISの問題点

患者さんにとって最善の治療を行うことは医師にとって当然です。当初、MIS法が米国で試みられ徐々に世界各国でも行われるようになりました。

日本にも導入されましたが、新しい手術方法にはリスクが伴います。当初は合併症も報告され、従来の手術方法と比較して手術成績が芳しくない報告もされたために、MIS法を断念したり、行わない医師も多くいます。

私は2007年より開始しましたが、反省を繰り返しながら、また手術器具の改良や開発を人工関節メーカーとタイアップして行い、安定した成績が得られています。

多くの医療機関、多くの医師が知識と技術の獲得に努力を重ね、現在のMISの地位が確立されているのです。

ただし、経験の少ない医師にとってのMISは従来法と比較するとやはりリスクが高くなると言わざる得ないでしょう。繰り返しになりますが、経験のある医師による手術が大切だといえます。

なお、医師個人の考え方、コンセプト、ポリシーによりあえてMIS法を取り入れない医師も多くいます。

MISのメリット/デメリット

メリット

  • 創が小さい
  • 術後の痛みが少ない(腫脹が少ない)
  • 入院期間が短い(医療費の削減)
  • リハビリがスムーズ
  • 社会復帰が早い
  • 術後早期の可動域、歩行能力が改善

デメリット

  • 適応症例に限界がある
  • 医師の経験、技術が求められる
  • 合併症が多い?(経験などが影響)

MISには当然デメリットもあります。MISにて良好な成績を獲得するには経験と確かな技術が必要になってきます。

また全ての患者さんに可能なわけではなく、変形が著しい場合は適応外となることもあります。
MISにこだわったがために術後の成績が悪化するようなことは絶対に避けなければなりません。

MISの適応については経験と技術のある医師にとっては適応が広がりますので、十分に説明を受けることが望まれます。